「先月、SaaSにいくら払いましたか?」——この質問に即答できる中小企業は多くありません。クラウドサービスはクレジットカード1枚で誰でも契約でき、月額数千円から始められます。便利な反面、誰が・何のために・いくらで契約しているかを誰も把握していない、いわゆる「野良SaaS」が社内に積み上がっていきます。
1ツール月3,000円でも、20個積み重なれば月6万円、年間72万円です。しかもその多くは、使われていない、機能が重複している、解約を忘れたまま課金され続けている——こうした「払う必要のないコスト」です。
この記事では、社内に散らばったSaaS契約を棚卸しし、固定費を実際に削るまでの手順を、ツール任せにせず手元のスプレッドシートでもできるレベルで整理します。
なぜ野良SaaSが増えるのか——コストが見えなくなる仕組み
SaaSのコストが膨らむのは、担当者の怠慢ではなく構造的な理由があります。まずはなぜ管理が効かなくなるのかを押さえます。
個人カード・部署カードで契約できてしまう
従来のソフトウェアは情報システム部門が一括購入していましたが、SaaSは現場の担当者がクレジットカードで即日契約できます。承認フローを通らないため、経理は「クラウドサービス費」とだけ記帳され、内訳が見えません。
少額・月額のため決裁にかからない
月額3,000円のツールは、多くの会社で「上長への相談なしで契約してよい金額」です。1件ずつは小さくても、全社で積み上がると無視できない固定費になります。少額決裁の積み重ねが盲点です。
担当者の退職・異動で「誰も使っていない契約」が残る
契約した本人が退職・異動すると、そのツールの存在自体が忘れられます。引き継ぎ資料に「月額課金中のSaaS一覧」が含まれていないことがほとんどで、解約されないまま課金だけが続きます。
SaaS棚卸しの手順——4ステップで全契約を可視化する
棚卸しは専用ツールがなくてもスプレッドシートで始められます。重要なのは「漏れなく洗い出す」ことなので、情報源を複数当たります。
ステップ1:支払い情報から契約を洗い出す
最も確実なのはお金の流れから逆算する方法です。以下の3つを突き合わせれば、ほぼすべての契約が見つかります。
- 法人クレジットカードの利用明細(直近12ヶ月分)
- 口座引き落としの履歴(年払い契約はここに出ることが多い)
- 経理の「支払先マスタ」「定期支払い」の一覧
年払いのツールは月次の明細だと見落とすため、必ず12ヶ月分を確認します。
ステップ2:棚卸し台帳に記録する
見つけた契約は、次の項目をスプレッドシートに1行ずつ記録します。後で「止める・残す」を判断するための材料を揃えるのが目的です。
- サービス名 / 用途
- 契約者・管理部署
- 月額換算の金額・課金サイクル(月払い/年払い)
- 契約アカウント数と、実際にログインしている人数
- 更新日・解約予告期限
ステップ3:利用実態を確認する
各SaaSの管理画面には、たいてい「最終ログイン日」や「アクティブユーザー数」が表示されます。契約上は10アカウントでも、直近30日でログインが2人なら、8アカウント分は払いすぎです。台帳の「実際の利用人数」を埋めていきます。
ステップ4:機能の重複を洗い出す
用途でグルーピングすると、同じことを別のツールでやっている重複が見えてきます。たとえばオンラインストレージを3種類契約している、タスク管理ツールが部署ごとに別、といったケースです。重複の整理はクラウド移行を進めるときの整理とも地続きで、全社で1つに寄せるほどコストも管理負荷も下がります。
止める・残すの判断基準——3つの軸で仕分ける
洗い出した契約は、感覚ではなく基準で仕分けます。以下の3軸で「解約」「縮小」「継続」に振り分けます。
判断軸を表で整理する
状態 | 判断 | アクション |
|---|---|---|
90日以上ログインなし | 解約候補 | 担当部署に最終確認し解約 |
契約数 > 利用者数 | 縮小 | アカウント数を実数に合わせる |
同用途のツールが複数 | 統合 | 1つに寄せて残りを解約 |
業務に必須・利用率高 | 継続 | 年払いへの切替で割引を検討 |
「念のため残す」を許さない
棚卸しが形だけになる最大の原因は「もしかしたら誰か使っているかも」という遠慮です。90日ログインがなければ、まず止めて様子を見るのが合理的です。多くのSaaSは解約後も一定期間データを保持し、再契約で復元できます。止めて困る人がいれば、そのときに戻せばよいだけです。
年払い切替でさらに削る
継続すると決めたツールは、月払いから年払いに切り替えると10〜20%安くなるものが多くあります。ただし年払いは「使わなくなっても1年は払う」リスクと裏返しなので、利用が定着している必須ツールに限って切り替えます。
再発を防ぐ仕組み——棚卸しを一度で終わらせない
一度きれいにしても、ルールがなければ半年でまた野良SaaSが増えます。増やさない仕組みを契約フローに組み込みます。
契約前の申請ルールを決める
新規SaaSを契約する前に、簡単な申請を通す運用にします。Googleフォーム1枚で「サービス名・月額・用途・既存ツールで代替できないか」を申請させるだけでも、衝動契約と重複契約が大きく減ります。
支払い窓口を一本化する
個人カードでの契約をやめ、SaaSの支払いを法人カード1枚や経理経由に集約します。支払いが1か所に集まれば、明細を見るだけで全契約が把握でき、棚卸しの手間そのものが減ります。
半年ごとの棚卸しを定例化する
台帳ができていれば、2回目以降の棚卸しは差分チェックだけで済みます。半期に一度、更新月の前にまとめて見直す日をカレンダーに固定しておきます。
まとめ:SaaS整理は「お金の流れ」から始めると漏れない
野良SaaSの棚卸しは、専用ツールを買う前に、クレジットカード明細という最も確実な情報源から始めるのが近道です。支払いから契約を洗い出し、利用実態と重複を確認し、90日ログインなしを基準に止める——この4ステップで、多くの中小企業は固定費を月数万円単位で削れます。そして契約前の申請ルールと支払いの一本化で、増えない状態を保ちます。
よくある質問
Q. SaaSの棚卸しに専用ツール(SaaS管理ツール)は必要ですか?
A. 契約数が20〜30程度までなら、スプレッドシートで十分です。それ以上に増えて手作業が追いつかない、ログイン情報を自動で集めたいといった段階になって初めて、専用のSaaS管理ツールを検討すれば十分です。
Q. 解約するとデータは消えてしまいますか?
A. 多くのSaaSは解約後も30〜90日程度はデータを保持し、その間に再契約すれば復元できます。ただしサービスによって扱いが異なるため、解約前に必要なデータはCSVなどでエクスポートしておくのが安全です。
Q. 現場が勝手に契約するのをどう止めればいいですか?
A. 禁止するより、契約前にGoogleフォームで申請を通す軽い運用に変えるほうが定着します。あわせて法人カードを支払い窓口に一本化すれば、申請なしの契約自体が物理的にできなくなります。
Q. 棚卸しはどのくらいの頻度でやるべきですか?
A. 初回の台帳さえ作れば、2回目以降は差分確認だけで済みます。半年に一度を目安に、契約更新が集中する月の前に定例化するのがおすすめです。
「どのSaaSを止めて、どれを残すべきか自社では判断しきれない」「棚卸しの台帳づくりから手伝ってほしい」——そんなときは、30分の無料相談でご状況をお聞かせください。御社の契約状況をもとに、削減できる固定費の見当と整理の進め方を一緒に整理します。



